大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(ク)28号 決定

東京都北多摩郡小金井町小金井一七五四番地

抗告人

野村親雄

同都昭島市福島八二七番地

抗告人

遠藤良吉

右両名代理人弁護士

野村幸由

右抗告人らは、東京高等裁判所昭和三〇年(ラク)第一七六号仮処分命令申請却下決定の抗告棄却決定の抗告却下決定に対する抗告につき、同裁判所が昭和三〇年一一月一二日なした抗告却下の決定に対し、更に抗告の申立をしたので、当裁判所は、裁判官全員の一致で、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

抗告代理人野村幸由の抗告理由について。

下級裁判所のした決定に対して最高裁判所に抗告の申立をなしうることとするかどうかは結局審級制度の問題に帰着し、憲法は同法八一条の場合を除きすべてこれを立法に委ねているということは当裁判所大法廷の判例とするところであり(昭和二二年(れ)四三号同二三年三月一〇日大法廷判決、高等裁判所のした決定に対しては違憲を理由とする場合の外抗告を許さず、かく規定しまたは解したとしてもこれをもつて憲法三二条に違反しないということもこれまた当裁判所判例の示すところである(昭和二四年(ク)一五号同年七月二二日大法廷決定、昭和二八年(ク)九六号同年六月二七日二小法廷決定)。この趣旨からすれば、最高裁判所に対する違憲を理由としない抗告につき原裁判所においてこれが却下決定をなしうべきこととするかどうかももとより立法の問題にすぎず違憲の問題を生ずる余地はないものといわなければならない。そして最高裁判所に対する違憲を理由としない不適法な抗告につき原裁判所においてこれが却下決定をなしうることは民訴四一四条、三九九条の規定に徴し明であつて、原裁判所が昭和三〇年七月五日した決定に対する抗告において違憲を主張していないことは抗告自体に徴し明白であるから、原裁判所がこれを却下したのは適法であり所論は理由がない。よつて抗告費用は抗告人らに負担せしめることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

昭和三一年(ク)第二八号

抗告人 野村親雄

外一人

抗告代理人野村幸由の抗告理由

一、抗告人は東京高等裁判所昭和三十年(ラ)第四一号仮処分申請却下決定不服抗告事件の抗告棄却の決定(以下第一決定と称するに対し同年(ラク)第九五号事件として抗告の申立をなしたところ原審は「高等裁判所の決定に対して抗告を申立てることが、できるのは訴訟法において特に最高裁判所に抗告を申立てることを許した場合に限られ」るところ右抗告はこれに該当しないとして却下の決定(以下第二決定と称する)をなしたので抗告人はこれを法令違背あるものとし民訴三九九条二項に基き更に(最高裁判所に)原審昭和三十年(ラク)第一七六号として抗告を申立てたところこの抗告に対し原審は抗告状記載の通り再び却下の決定(以下第三決定と称する)をなしたのであつて、その理由とするところは第二決定におけるそれと全く同一のものであり、即ち実質上全然同一の裁判を同一事件につき二度繰り返したものであるが、これは上訴制度乃至覆審主義を採用した民訴法の基本理念に違反するものであり、又所謂再度の考案を認めた法意(原決定を取消す場合に限り原審自ら原決定の変更をなし得るものとなした)に矛盾するものである。抑々高裁が、民訴三九九条(抗告に準用)に基き或る抗告を法律上許されないものとして却下した決定に対し法律上許されるものであると主張して更に抗告が、なされた場合には該抗告の当否は最高裁の判断に委ねられねばならないこと審級の構造上自明であり、もし、高裁が、再び同一理由により不適式としてこれを却下する如きは全く無意味であるばかりでなくこれは結局斯る決定の当否につき最高裁の判断をうける途を永久に遮断することとなり、叙上決定に対し抗告を許した法意は没却されることとならさるを得ないのである。民訴三九九条(抗告に準用)は本件についていえば第一決定に対する抗告に関する規定であつて第二決定に対する抗告に適用あるものではない、いなこれは法文に所謂抗告が、「不適法」なる場合に該当しないのである。蓋し叙上抗告は第二決定の法律上許されない抗告であるとの判断に対する不服の主張であり、斯る主張が、法律上理由ありや否やは別とし、叙上判示をなした第二決定に対する抗告として不適式であるべき道理はないからである。また原審はいかなる法的根拠に基いて原決定をなしたのか、これを示していないので、この点は全く不明であり、理由に不備あるものと謂はねばならないのである。要するに原決定は民訴法の基本原理並に同法第四一九条の三、同第三九九条二項及び同一九一条一項三号同第四一七条二項(同第三九五条一項六号参照)に違反するものである。

二、原審は上述の第二決定に対する抗告申立につき抗告人に対し昭和三十年九月二十九日附を以て抗告受理の通知をなしたこと記録上明白であり、従て原審並に抗告人はこれに拘束されるものに拘はらず適法にこれが取消をなすことなくしてこれと矛盾する第三決定をなしたのはその手続が民事上告等訴訟手続規則第二条第十五条に違反するものである。

三、第二決定に対し最高裁判所の判断をうけるため抗告の申立をなし得ることは民訴第四一九条の三により準用される同法第三九九条二項の明定するところであり(この点は追て詳細理由書を提出する)、原審が事件を最高裁判所に送付せずして自ら上述のやうな決定をなしたのは結局同条に基く抗告人の所謂裁判を受ける権利を否定したものたるに帰着し憲法第三十二条に違反するものである。

以上

昭和三一年(ク)第二八号

抗告人 野村親雄

外一人

抗告代理人野村幸由の追加抗告理由

一、抗告裁判所たる高等裁判所の決定に対して再抗告をなし得ることは民訴法第四一三条に、また右再抗告を不適法として却下する決定に対し抗告を申立て得べきことは同法第四一四条により準用される第三九九条に夫々明定するところであり、これらの再抗告及び抗告を提出すべき裁判所は最高裁判所であることは審級の構造上自明である。

尤も叙上の点に関し貴庁が既に下した幾多の判例は何れも裁判所法第七条の規定を根拠とし、即ち「同条第二号に所謂訴訟法において特に定める抗告とは訴訟法において特に最高裁判所の権限に属するものと定めた場合のみを指称するとなしその他の場合は(訴訟法にいかやうの規定が存するとも)最高裁に抗告をなし得ない」(要旨)となしている。しかしながら裁判所法における裁判権に関する規定は、既に訴訟法において創設した裁判を求め得る各場合につき事務分配的に何れの裁判所に裁判権限があるかを定めたものであつて、決して裁判を求め得る場合自体を創設したものではない。国民は訴訟法の規定に従い裁判所に私権の保護を要求する権利を有するものであつて裁判所法はこれを制限したものではない。従て訴訟法によれば抗告をなし得るに拘はらず裁判所法上これを提出すべき裁判所がないことになるやうな見解は甚だしく不合理であり採るべきでない。訴訟法において許された抗告はその総てが何れかの裁判所の裁判権に帰属するやうに訴訟法及裁判所法を綜合的に解釈せねばならない。裁判所法の規定に基き先づ抗告をなし得るや否やを決し、然るのちにこれを以て逆に訴訟法におしつけるが如きは裁判所法、訴訟法の性格誤解に基く本末顛倒論であり、最高裁の負担を軽減するためには訴訟法自体の改正に俟たねばならないのである。

三、前記諸判例はその見解を維持する根拠として幾多の理由を挙示しているが、これらは何れもその基本的態度において裁判所法の性格無視なる過誤に陥いつていることを別にしても法条の文字の末節にとらはれた独自の見解であつて甚だ合理性を欠くもののやうである。しかしここではこれらにつき詳論するの煩を避け簡単に反駁を試みることとする。

(一) 判例に曰く「もし最高裁の裁判権が高裁の決定及命令に対する抗告を含むものとすれば裁判所法第七条第二号には、(イ)再抗告とか(ロ)高等裁判所の決定又は命令に対する抗告とか定むべきであるばかりでなく、(ハ)更に高裁が三審としてなした決定又は命令に対しても抗告できるか、どうかをも定むべきである」(要旨)と、しかしながら現行法上再抗告は高裁にもなされるから叙上(イ)のやうに単に再抗告と表現するに適しないし、又現行法上高裁が第三審としてなした決定又は命令に対しては一般に抗告を許す旨の規定を存しない(民訴四一三条参照)から叙上(ロ)のやうな表現を用いるのはまぎらはしくて適当でない(高裁の三審決定に対しても一般に抗告をなし得るやの疑を生せしめる)し、更に現行法上一般に高裁が三審としてなした決定に対しては抗告を許さないのであるから、裁判所法で叙上(ハ)のやうに規定するは適当でなくいなその必要がないのである。

(二) 次に叙上判例は、裁判所法が「訴訟法に於て特に定める抗告」というやうに特別の字句を用いているのを根拠とする。しかし単に「訴訟法に於て定める抗告」と表現したのでは莫然としてその意義が確然としない。「特に」と規定したのは訴訟法上(明文上又は審級制度の構造上)最高裁になさるべきものとなされた抗告たる意義を表明するためと解して何等不自然でなく、却て裁判所法の性格、訴訟法の規定に適合するのである。

三、民訴法第四一九条の二の所謂特別抗告に関する規定は憲法違背を重視し、これを理由とするときに限り、本来は不服を申立てることを得ない決定(決定のみについて論する)に対しても特に抗告を許したものであつて、法条に「特に」とあるはこの意味であり、また、これは憲法違背のみを理由となすものであるから審級いかんに拘はらず総て所謂憲法裁判所たる最高裁に申立つべきものとなし、これを明らかにするために「最高裁判所ニ特ニ抗告ヲ為スコトヲ得」と規定したもので、別に他意があるわけではないのである。これを要するに本条は不服申立を許さない決定を以て規定の対象となすものであること文理上自明であり、従てある決定につき同条の適用あるや否やの問題に解答するには、まずその前提として、同条を除く他の規定に従つて当該決定に対する不服申立が許されているかどうかを決せねばならないのであり、斯る前提を経ずして叙上の問題に結論を与へることは許されないのである。ところで本件において第一決定に対しては第四一三条により、第二決定に対しては第三九九条第二項(抗告に準用)において不服の申立を許しているから、前記特別抗告に関する規定をこれ等に適用することはできないこと明らかである。従て右特別抗告に関する第四一九条の二の規定から逆に叙上抗告が排除されたものと解し得ないこと自明であり、訴訟法上他にこれを排除した規定はないところである。上述の通り民訴法第四一条第三九九条第二項(抗告に準用)等は不服申立を許した規定であり、第四一九条の二は不服申立を許さない場合に対する規定であるから、これ等の法条は相互に矛盾することなく、両々相俟つて、苟も憲法違背ある決定は総て洩れなく最高裁の判断をうけしむべき使命を果しているのである。

他方不服の申立を許さない判決、詳言すれば、判決は、直接又は間接に最高裁に不服を申立て得るのを原則とするのであるが、たゞ高等裁判所が上告審としてなした終局判決については例外として最高裁に対する上告が許されていないのであり、即ちこれは不服の申立を許さない判決であるがこれに対しても民訴法第四〇九条の二において憲法違背を理由とするときに限り最高裁に上告をなし得るものとなしている(同法条の第二項は暫く措く。)これが所謂特別上告に関する規定であつて、抗告における第四一九条の二に対応し、即ち抗告に関する上述の規定と相俟つて不服申立を許さない総ての判決又は決定につき憲法違背を理由とするときに限り更に最高裁に不服を申立て得る途を拓いたのであつて、斯る法の構成から考へても上述の第四一三条及び第三九九条第二項の法意を窺い知るであらう。

ところで不服の申立を許さない決定の主なるものは高裁が三審としてなした決定であり、これは判決については高裁が上告審としてなした上述の場合に対応するものというべく、たゞ決定の場合には不服申立を許さないものが叙上の場合の他にもある関係上両法条が、立言方式に差異を生じたのであるがいずれにせよ両者は共に不服申立を許さない裁判を規定の対象となし、固より他の規定において不服申立を許している場合につき何等の干渉をも試みているものではないのである。

四、民訴法と裁判所法とは法域を異にし、固より一般法と特別法の関係にたつものではないから、後者の第七条により前者の第四一三条等が改変されたものと観るべきはない。のみならず訴訟法を改変するときは当該法条において、これを明らかになすのが正規の方法であり、殊更に奇を好み、裁判所法の性格を無視してまで、敢て同法により訴訟法を改変するような変則の途が採られたと認むべき合理性がない。

殊に裁判所法第七条の文字の上においては、このような法意を現はしていないのであり、叙上のような変則手段を弄したと認めるには、これを肯認せしめるに足る理由がなければならないのである。民訴法第四一三条等においては明らかに最高裁に対する抗告を認諾したまま他方これと関係なく裁判所法第七条は「訴訟法において特に定める抗告」が最高裁の裁判権に属すると規定したのが法の真の姿に外ならないのであり、法意の不明は合理的な解釈により補足する外はないのである(実は裁判所法の上述の規定は最高裁の裁判権の方向から規定したものであつて出訴権を定めたものでないこと第一項に既述した通りである)。

五、上告が不適法にして其の欠缺が補正すること能はざるときは高裁は上告を却下する決定をなすことを要し、再抗告につき亦同じである(民訴三九九条及四一四条但書)が、他方この決定に対しては即時抗告をなし得ること明文の存するところであり(民訴三九九条二項)、この抗告は最高裁に対してなさるべきものなることは審級制度の構造上自明であつて、この点は恐らく何人にも異存のないところであらう。又民事訴訟法第四一二条第三項により高裁のなした決定及び同第四一一条に該当する高裁の決定に対しては、同法第四一〇条により最高裁に抗告を申立て得るものと謂はねばならない。しかるに上述の判例の立場からすればこれらの抗告をも否定せねばならないのであり、その見解の維持すべからさるものなること明らかであらう。なほ訴訟法で不服申立を認めた場合に申立つべき裁判所を指示しないのを原則とする。これは審級の構造上明白であるばかりでなく、裁判所法で定めるものであるからである。故に民訴四一三条等に最高裁の挙示がないのは当然であり、この故に最高裁に対する抗告を否定したものでないこと論を俟たない。

以上

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